・・・どうしょう・・ ホテルのベッドにちょこんと座った郁は、あたりを見回したまま落ち着きをなくしていた。 こういうところに来るのは、もはや初めてではない。 だけど、いつまで経っても慣れない。 ましてや、今日は一人でここにいる。こういう状況は初めてで、郁はくつろぐこともできずに、ひたすら堂上を待っていた。 公休前に外泊することはよくあることで、いつもなら駅で待ち合わせて、食事をしてからのチェックインとなるのが、今回ばかりは違っていた。 すでにホテルを予約した状況で、都内図書館の定例会議出席の話が来たのは、公休の三日前だった。例によって例の如く、隊長の丸投げで「お前、緒形と二人で行って来い」の一言ですべてが決まった。 キャンセルするかと郁とも話したが、せっかくなので行きたいと郁は言った。 堂上にとってはうれしい言葉だったが、キャンセル料の心配でもされたかと、思わないでもなかった。会議の場所が場所であるし、議題によっては何時に終わるか分からないので、「先にチェックインしてろ」と指示を出した。 会議が終われば、直接ホテルに向かうからと・・・。 そうした訳で、郁は一人ホテルの一室で、ひたすら堂上を待っているのであった。 いつまでそうしていたことだろう。 不意に、かちゃりとドアが開いて、「遅くなってすまなかった」と声がした。 ドアに背を向けるようにベッドに腰かけていた郁は、ゆっくりと振り返りほっとしたように微笑んだ。 「飯は食ったか?」という問いに、ふるふると首を振り「まだです」と呟いた。 「そうか、今から出るより、ルームサービスを頼むか」 そう言って荷物を置き、ホテル案内を確認するのを郁は黙って見続けた。 「・・・ん? どうした? 」 振り返った堂上にどきりとする。 おかしい、おかしいよあたし。確かに今日一日教官はいなくて、逢うのは昨日ぶりだけど、何でこんなに緊張してるのーー!! 真っ赤になるほほを押さえて、あたふたする郁に、ぶっと噴き出して「声に出てるぞ」と堂上が言った。 「ええーーっっ」 「叫ぶな、うるさい」 そう言いながら郁の正面にきた堂上は、座っている郁を見下ろした。 あ、こうやって教官見上げるのって、珍しいかも。 そう思った視線が絡まった。 そして、絡まった瞬間から、郁は堂上から目をそらせなくなっていた。 見慣れているはずの堂上の顔が、見上げているせいで違う人のようにも見える。 見つめる瞳の中に自分の姿を確認して、自分も見られているのだと気づく。 ・・・どうしよう、そらせない・・・。 ふっ、と堂上が息を吐き、わずかに微笑んでから「そんなに見つめてくれるな」と呟いた。 そして、やんわりと頬を撫でられ、息遣いが感じられるほどに顔が近付いてきた。 そこまで近づいてやっと、郁は瞼を閉じた。 Fin |