柴崎と手塚が付き合うようになって、季節は秋に足をかけた。 風が心地よかったので、柴崎とお昼は図書館の裏庭で、おにぎりを食べようと決めた。 食べ終わって、なんとなく、お互いの背にもたれるようにしながら、郁が柴崎に聞いた。 「ねぇ、柴崎、幸せ?」 こんなこと、面と向かっては言えない。分かっているのか、柴崎もくすりと笑って答えた。 「幸せよ、おにぎりはおいしかったし、風は気持ちいいし」 「そういうことじゃなくてっ」 はぐらかされたと思ったのか、郁の口調が強くなる。柴崎は「何よ、急に・・」と呟いた。 「いや、だから、最近手塚が幸せそうだから、柴崎もそうだといいなと思って・・・」 どこがとは言えないが、最近手塚は雰囲気が変わった。 あえて言うなら、幸せオーラが漏れている。 特殊部隊の先輩たちが「そんなとこまで、上官を見習うなっ」と叫んでいたから、郁と付き合い始めたころの堂上はこんなだったのだろう。 公私混同はしないが、そばにいる分駄々漏れで、そんなに話題を提供してたのかと思うと、いまさらながらに郁の顔は赤くなる。 だから、あの頃の堂上に似ているという手塚は、きっと今幸せなのだ。 いろいろ紆余曲折があって、ここまでたどり着くのに随分時間を費やした。 そうしてやっと手に入れた柴崎も、郁にとっては大事な親友で、手塚と同じように幸せでいて欲しいのだ。 「んー、そうね、幸せ、かな?」「かな?」 なのに、柴崎の返事が疑問形って、どういうことだ。 怪訝に思って聞き返すと、誰もが見惚れる笑顔で柴崎が答えた。 「だって、手塚は幸せそう、なんでしょ。だったらあたしは、幸せかな?」 それは、手塚が幸せならあたしも幸せ、ということを表していた。 ああ、こんなことを素直に言えるように、手塚はしてくれたんだね。 柴崎が、こんなことを言えるくらい、手塚は幸せなんだね。 思わず、柔らかい笑みがこぼれ「手塚は幸せだね」と郁は呟いていた。 「じゃあ、あたしも幸せ」 柴崎と二人、見つめあって笑いあう。 もうすぐ昼休憩が終わる。 二人を捜していたのだろう、幸せの足音が近づいてくる。 「郁」という耳慣れた声の一拍あとに、「・・麻子」というぎこちない声がした。 二人は立ち上がり、幸せに向かって歩き出す。 Fin 幸せの足跡をつけて歩こう。 |